2022年4月21日木曜日

発見

 ずいぶん偉いひとから

手紙をもらっていた

有名な作家や詩人

詩集を出した時、3つの新人賞の最終選考に

残っていた

思い出した

詩集を出して賞をとるレースに明け暮れる

そういう道をたどってはいけない

尊敬する詩人が手紙をくれた

審査員に媚びて賞を貰う

好きなことだから 愛想笑いは しなかった

部屋を掃除して書評を読んでいたが

審査員は みな亡くなって

思い出すら かちんかちんの粘土 

外は雨になって 

忘れていた記憶がよみがえる瞬間 

寒気がする

地中に眠る人たちの

たくさんの本に囲まれ

呼吸がつらい

詩人の仕事は ひとつ

ひとびとを幸せに

この世の様々なことを美しい言葉で描写する

なかなかそうはいかない

ある夜

長谷川龍生が話していた

いまさらにして 新しい発見の日

 

庭と畑と

 夏のような日が続いている

ウクライナの戦争も

上海のコロナも続いている

きゅうり苗に かぶせる ビニールを買う

ホトトギスが 啼いている

ほーほけきょ というから

おもしろい 草むしり

ししとう 甘長 鷹の爪 ピーマン 

20日間好きなことをしている

昨年剪定した キンモクセイのうち

大きいのが 元気がない

伐り過ぎたかも

書棚を整理する 廊下に並べて

手紙が挟んである

すでに 亡くなった人が多い


2022年4月15日金曜日

雨が降っている

 とうとう机の周りをかたづける

昔の年賀状が出てくる

すでに 亡くなった人 

お元気ですか 今年もよろしく

とうとう退職です お世話になりました

しばらくは好きな俳句の会に

楽しそうに 書き添えてある

いやあ 高齢の鬱 になりそうだ

静かに机に向かうと

膨大な時間が 過ぎている ことに

気がついて

開高健の短編を改めて読む

初めて 作家の息遣いを感じた

万年筆の筆圧のようなもの

感じた

気が付くと雨は やんで

2022年4月13日水曜日

ユズの木を抜く

 南に植えていたゆずの木も

長い間にすす病になり黒く昨年から少しづつ

伐りはじめ

とうとう根っこを掘り

暑い夏のような春に

悪戦苦闘してぼたぼたと汗して

何か所も太い根ががっしりと

それをのこぎりで切り

スコップで堀進み

最後の根っこまで

朝8時から午後5時まで

すごいものだ

根っこは地上の3倍はある

ハサミで切ると柔らかく

ごぼうのにおいがする

全部取り去って土をかけて

水をかけて

長い間お疲れさまと声をかけた

すると日陰にうっすらと

ひかりが射して

私の一日も終わった


2022年4月10日日曜日

コンクリートブロックを

買ってきて
畑に ぐるりと置いて
にらを植えて 
草を採り 急に夏になって 
排水溝の掃除をして
土曜日や日曜日には安心する
みんな休日だから
無職の人はこういう感じか
さみしいものだ

48年ぶりに無職になった
はじめは嫌だったのに
そういえば退職した大学教員は
家に来い 本を寄付する
これはお前にやる
偉い人も
旧帝大の学長も学部長も文化勲章も
電話かけてきて 書斎の掃除して
不要な本は図書館に渡し
亡くなるとご遺族がもう一度
連絡してきて
今度はごっそり整理するのだ
こうしてみんな 定年後は 畑を耕しながら 
年をとっていくのか 
味わっているが 
やはりどこか まだ 納得していない 
地球上の経済活動 定年 
耕して食糧を作ること それはわかる 
燃え尽きないのだ 納得のいく 
きちんとした 
詩が生まれていないから
なんて 言い訳を考えながら
庭の草を抜いている
雀に餌を撒いて
ほかの鳥も待っていて
この瞬間を得るために
これまで働いてきたのだと
納得させるのに
手こずっている
難しいものだ
人間は
私は

2022年4月8日金曜日

畑の翁に

 朝早くから

庭先の畑を耕して

汗をかいて

エンドウ豆の棚を作り

石灰を撒いて

スギナの根っこを取り

あちこちの地震や

ロシアとウクライナのこと

想いながら

タタールのくびき

思い出しながら

午後は自室の書棚の整理

たくさんもらった詩集

あまり読んでない

順に並べなおして

いろんな人の手紙を

読み直して

午後を終える

2022年4月1日金曜日

寒い4月


目が覚めると 
金曜日だったが
今日は出勤しない日だ
新入りの頃
紺の背広に縞のネクタイ
皮靴と鞄
朝飯も食わず
勤めに行く朝
いやだった
電話が鳴っても
出たくなかった
そのうち
椅子にもたれ
ネクタイゆるめ
残業して
48年
今日は庭の草をつまんで
学校から流れるチャイムを聞いた
5時だ
すると連休が終わった夕暮れに
海辺を歩いている
若い頃の情景が
私をはるかな宇宙空間に
誘い出す
帰れない旅が
はじまっているのか
それとも
これを得るために
頑張ってきた
ごほうびだろうか
両親に聞いてみたい