驚いたこと③
駅のホームに立っていると、旧知の大学教授ご夫妻と出会う。
「私たち、法事で東京へ参りますの」なつかしく楽しい雰囲気。
特急に乗ると偶然にも座席は前後だった。先生は、奥様と相談し
「
きみ、席をくるりと回せ、今度、漱石の初版本をね」と、先生は上機嫌、
奥様は朝早く、
お疲れの様子、うつらうつら。先生はわがまま、好きなことには熱中するが、嫌いなことは断固拒絶。私は若く、階段を二段ごと駆け上がる。先生も、
膝を痛めておられる奥様をかばい、ゆっくり乗り換え。
新幹線が着く。先生と同じ車両、
席も前後で空席が多い。
「さあさ、こっちこいよ、
今日は愉快だ」先生は、車内で子供や
ご婦人がわあわあしゃべるのが大嫌い。先生は古書自慢「この前、北村透谷の」その時だった。
ワイワイ騒ぎながら七十代の女性が、たくさん
乗り込んできた。
ホームにもあふれているではないか。
先頭のリーダーが私の頭上で大声を上げた。「どいてください。
私の席です」。
「え、なんだい」先生はにらみつけた。「どい てください早く」。
私は「席は何番ですか」「〇の〇〇のD席」
私の座席だったから、私は切符を見せて「
そちらが間違いですよ」強く出た。
先生は「そうだよ」するとリーダーはくるりと振り返り、
「この列車は違う。全員降りて、
さあ降りて」みんなすぐに下車した。
先生は、「最近は、
ああいうやからが多い。おっちょこちょいだ」。
まもなく車掌が検札にきて、「お客さん、
この切符は後ろからくる列車ですよ」
一番前の車両に移動させられた。先生はその後二十年間、
何度も何度も笑い転げた。あのご婦人たちの旅は、その後どうなったのか。
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