2012年6月10日日曜日

三嶋善之の詩(3)


静かな秋         三 嶋 善 之

寒い休日
白山のケヤキが金色に染まっている
千本のさお竹が舗道に倒れる音

下駄の学生が硯箱を抱いて走る
「書道本日休講」みごとな隷書体

都営地下鉄工事の濡れた鉄板は容赦なく滑る
下駄履きは爪が剥がれる

酔った詩人が砲兵の話をする
馬で引っ張ってやっと砲の方向を決めてこれから

というときに横から攻めてくる
困るんだなあ

若狭の家に柿がひとつ
カンボジヤ街道から東大寺まで

足利も信長も秀吉も走りぬけた
飢饉もなんとか生き伸びた
その子孫たち
たまたま同じ発音の大統領

短い夢を見る
恐ろしい夢

大きなビルの五十九階で下りる
「老人クラブ」という看板がある
老人たちは裸で大声で

家に寝とったら
朝方
小浜の海から焼玉の音が聞こえる
北川沿いにのぼってくる

若狭の上下宮さんへ行くんやろ
かなや りゅうぜん ちゅうの じんぐうじ
なかのはた しもねごり かみねごり
すぐ きょうとやで

あわててクラブを出て
透明な三角のボタンを押す

エレベータの床は真っ赤で
いやな予感がする
パカンと床が開いて
鉛筆のように硬くなって

僕はまっすぐ落下した
ひたすら落ちる 誰にも会えぬ
おそらく助からない

暗闇を落ちていく
轟々と落ちていく
そこでうっすらと目が開く

秋の朝の運動会
開始の花火が響いている

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