2012年6月11日月曜日

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平成24年5月28日「日刊県民福井」連載小説

2012年6月10日日曜日

三嶋善之の詩(4)


二十世紀           三 嶋 善 之
 



過去の道は白く乾いて

はば広く直線で

ゆるやかな山のふもとの

遠くの一軒家から

夕餉の煙が出ている


お風呂が沸いている

かまどの菜っ葉も煮えて

板の間の三毛猫が背を伸ばす

この家の子供たちは数学が得意

素直で丈夫


お盆には必ず帰ってくる

どんなに離れていても

なつかしい父母の暖かい家めざして

気球に乗って帰ってくる

どうしても帰れないとき


夢の中に現れる

それでも

父母はうつむいて

いつものとおり

おだやかな川で鍬を洗い



無言で迎え火を焚く

三嶋善之の詩(3)


静かな秋         三 嶋 善 之

寒い休日
白山のケヤキが金色に染まっている
千本のさお竹が舗道に倒れる音

下駄の学生が硯箱を抱いて走る
「書道本日休講」みごとな隷書体

都営地下鉄工事の濡れた鉄板は容赦なく滑る
下駄履きは爪が剥がれる

酔った詩人が砲兵の話をする
馬で引っ張ってやっと砲の方向を決めてこれから

というときに横から攻めてくる
困るんだなあ

若狭の家に柿がひとつ
カンボジヤ街道から東大寺まで

足利も信長も秀吉も走りぬけた
飢饉もなんとか生き伸びた
その子孫たち
たまたま同じ発音の大統領

短い夢を見る
恐ろしい夢

大きなビルの五十九階で下りる
「老人クラブ」という看板がある
老人たちは裸で大声で

家に寝とったら
朝方
小浜の海から焼玉の音が聞こえる
北川沿いにのぼってくる

若狭の上下宮さんへ行くんやろ
かなや りゅうぜん ちゅうの じんぐうじ
なかのはた しもねごり かみねごり
すぐ きょうとやで

あわててクラブを出て
透明な三角のボタンを押す

エレベータの床は真っ赤で
いやな予感がする
パカンと床が開いて
鉛筆のように硬くなって

僕はまっすぐ落下した
ひたすら落ちる 誰にも会えぬ
おそらく助からない

暗闇を落ちていく
轟々と落ちていく
そこでうっすらと目が開く

秋の朝の運動会
開始の花火が響いている

三嶋善之の詩(2)


木 犀               


延び放題の枝をばっさり落とす
新しい風がゆっくり移動する

錆びたバリカンに油を塗って
父が散髪の支度をしている
いつもの場所
木犀の花が咲いている

祖父が父を散髪する
大東亜という戦争
夜明けまで畑に立っている
白い和紙に髪を包んで

長髪で帰省する
乞食が村にいるらしい
正午のサイレンのようにふれまわる
酒の好きな村人たち

黄昏のように視線を避けて
薄く褪めた樟脳
老いた礼服で
儀式のたびに散髪する

知らない場所に行く
知らない人に会釈する
清潔な十月の朝
木犀の花が咲いている

三嶋善之の詩(1)



忘 日
          
南信雄さんの出版記念会で
坂本政親教授の隣に座る
病気の山川登美子が東京から帰るルートを訊ねる
絶好のチャンス到来なれど
大津から琵琶湖を舟で渡り今津保坂を背負われ
熊川から若狭小浜まで人力車でしょうか
萎縮して質問できなかった

特快の切符はどこで売っているか
新宿紀伊国屋の帰りのエスカレータは
東西線と総武線 銀座線と半蔵門線の違いも
常磐線と常磐炭鉱の関係 
小田急 東横 東急 西武 東武東上線と伊勢崎線も
谷中 日暮里 大井 中山 府中 川口 船橋 川崎 
昼間から酒を飲んでいる
小手指とはどこか 我孫子は「がまご」ではない

恩賜の浜離宮 しかは賜暇であって私暇ではない
かかとを鳴らして硬い礼 しないと休暇はもらえない
元憲兵隊の課長は本当に殴る
護国寺 深大寺 吉祥寺 オデラン座はオデヲン座 
しいなまち かなめちょう ふかさわ とどろき

次は あわじちょう
するすると喧騒を抜けてたどりつく米原
故郷の方角へくるりと座席を回転させる

微熱の雨はたえまなくななめに降りそそぎ
列車を濡らしている
この列車も私もまもなく
北陸の長いトンネルに突入する

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清水洋一郎です

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