2012年9月29日土曜日

新詩集10


えんどう(豆)            

 

なくなる前に主人の蒔いたえんどう(豆)

稔りましたので豆ご飯をつくりました

痛むひざをさすりながら

バスに揺られて届けてくださった

 

あいにく不在で

お礼もきちんと申しておらず

ごついケヤキの表札をたずねる

涼しい白壁

蔵の石垣

何の返事もなし


草ぼうぼう

おおい隣の畑にいる人よ

この家の住人は旅行中か

 

ああ いつも豆を育てていた

静かなおばあちゃん

都会の病院で

 

私の吐息は夕焼けの銀河に消える

私は眼を閉じ息を深く吸いこんで

祈る

かつて地上に住んでいた

こころのやさしい地球のヒト

はるかかなたをゆくあなたの旅が

ほほえみに満ちた楽しいものでありますように

やがて

さわやかな朝

青い美しい星に

静かにふうわり到着しますように

その星にも

甘いえんどう(豆)が一面にひろがる

畑がありますように

 

 

 

オダさん   織田 栄へ    

 

ヨロメキナガラ

ホホエンデ

ジャア マタ

皮ジャン

霧ノ中ヘキエテイク

徒党ヲ組ム ダイキライ

ダカラ イツモ ヒトリ

 

オダさん

コンナニハヤク

シュッパツスルナンテ

モット ビールノンデ

サワゲバ ヨカッタ

 

オダさん

チョットオドケテ

ジャニス・ジョプリン

ストーンズ

ネコノオツゲ シンジテ

 

オダさん

アノ日カラ電話

カカッテコナイ

サミシイ

 

ミシマハン オダデス

ゲンキカ

イイ詩カコウ

ヒトノコトナンテ

ドウデモ イイ カラ

 

 

 

 

 

 

新詩集9

整形外科で

首を吊って引っ張る道具

肩に電気を通す機械



肩が

イタイイタイ

眠れない

しびれて

刺すような

痛み

首が廻らない

死にそう

重い

だるい

気分が悪い

首が重い


カバは

首が重いなんて

言わない

まてよ

ブルドック

人間が勝手に

バランスをこわして

帝王切開で出産するという記事

犬の本にあった


おばあさんが

服をたくし上げて

腰に電極をあてる

僕はあわてて目を閉じる


鳩の一生


このように

発表するつもりはなかったのです

夏休みの宿題を

鳩の死でごまかしました


兄が飼っていた鳩二十羽

卵が割れ

子が生まれ

何度も粟を与えていると白い鳩になり

突然羽ばたいて

頼りなく屋根の上に留まりました


ちょうどその時

どこかの鳩の集団が旋回して

あっという間に

五日たっても帰らない

さらわれてしまった


でも帰ってきた

そして翌日死んだ

兄は墓を作る

祖母は死ぬために帰ってきた

と僧侶のように唱え


講堂の児童はみんな泣いている

担任は目を赤くして

よい発表でした

先生も涙こぼれたよ


鳩の死

悲しかったのは本当です

その後

宿題ごまかしたから

いいかという気持ちになった

のも本当です


どんぐり


山でどんぐりを十個拾ってきなさい

喚声をあげて

神社の裏山へ走った

途方にくれた


暗い

蛇もいる

どんぐりは一個も見つからない


明るい道で

数十人かたまって選別している

彼らが捨てたどんぐり

虫食い

腐った

形の悪い

人が棄てたものを拾うなんて


数の概念を教える教科書に

どんぐりの絵が並んでいる

貧弱な私に同情して

先生は五個くれる

数の概念より

屈辱という体験を

すでに私は

味わっている



さよなら

       二〇〇一年九月十四日の父に



初めて

高枝剪定鋏を使いました


父さんがいつも使うから

僕は使えなかった



西から晴れて


最高気温は

日本海側で十七度

土曜日は晴れます

なだれ注意報

全域に乾燥注意

傘を忘れないように

北海道では昨日まで快晴


株価が平均一万円を割って


美濃は昼過ぎから

飛騨は夕方

福井県嶺北地方は

長野南部は曇り

大阪は昼前から曇り


静岡市と清水市が合併することを

延期して欲しい市民がいる

給料未払いなのに

所得税の源泉徴収について


心配するな そのような

こと くよくよするな


帰る場所が無い


帰る場所が無いのなら

ここにいてもいいのです

どうしても

真実を知りたいというのなら

ここにいてもいいのです

老いること

病気

死ぬこと


気性も荒く

巧言令色

しかし

この国は良い国


死はいつか

かならず

君の頭上に輝くだろう


きょうは

良い天気ですね

ふかぶかと

頭をさげて

腰を折って

世間話ができるだろう

新詩集8

ごめんなさい
 

滑り込んできた「ひかり」に乗って

わいわいがやがや

おばさまグループの先頭が

私を見つめて

すみません

どいてください

 

私は余裕たっぷり

切符を見せて

座席番号もぴったり一致しています

失礼ですが

列車のお間違いでしょう

 

リーダーは突然振り向き

はやくはやく

みんなすぐ降りてくださあい

いっせいに出口へ走る

 

最近多いね

自分だけが正しい

信じ込んでいて

他人が悪いという連中

困った傾向ですね

 

まもなく

車掌が帽子をとって

お客さん

この切符は次の列車ですよ
 

顔は笑っていない

加えて声も冷たい

  

黄檗山萬福寺
 

木魚が廊下に

ぶらさがっている

抱きしめて

持って帰りたい

 

外は良い天気

エキゾチックなお寺

 
整形したきれいな奥さんが

まったく似ていない子供を連れている

 
突然テープレコーダーが

案内をはじめる

 
京都の中の異国

ここはどこ

 

流言蜚語男

 
敦賀に上陸した敵は

舞鶴の海上自衛隊と小松の航空自衛隊で叩く

それで殲滅できずに上陸した時には

今津の戦車隊が迎え撃つ

それでだめなら

小牧と浜松の空挺部隊が協力して

それでもだめなら横須賀と厚木の米軍

朝霞の戦車隊で首都を守る

どうだすごいだろう誰も知らないだろう

店にいた客は

いっせいに沈黙する

隣は真剣に聞いている

敵が攻めてくる日は近い

しかし誰にも言ってはいけない

 

一人の男

あわてて店を出て行く

誰かに告げるために

 
青い空

 
ムクドリが電線にいる

どこからか鳩もきている

道路に犬が走っている

猫も座っている

とんびが鳴いている

 

小学校の宿題は

巧妙に作られている

 
星座や地球の温度も

誰かが決めたみたいに

安定しているうまくなっている

 
ほどほどに

無理をしないことだ

長生きのこつは

無理をしないことだ

 
そうして

好きな事を追い求めることだ

 

杞憂


いま

真っ赤な太陽が沈むところ

あの赤い球体

明日の朝

再び現れなかったら

今日は暑かった

大きな太陽がいま沈むところ 

再び現れなかったら

明日の新聞の活字は

どんな大きさになるだろう

 

活字が新聞紙より大きくなる日

会社の採用試験は中止になるだろう

 

「天が落ちる」

良識のある人はみんな

心配していた

とうとう現実になった

という社説が出る

 
暗闇のなかで強盗も出る

いずれみんな死に絶えるから

静かにお祈りをささげて

じっとしていると

また再び太陽は昇りはじめ

あたりが明るくなって

学校で教わったでしょ

五百年に一度の皆既日食

子供に笑われる

  

風の強い日

 
コートの襟を立てて

歩き出す

駅はすぐに

現れる

線路は

海岸から

さびしい村を抜けて

高い山を越える

 

列車には

薄茶の目の男と

背の高い女が乗っている

 

どちらも映画に出るような

派手な服装ではない

 
どうしてそうなのか

わからない

二人の会話は

親しそうで

そうではない

 

木の下で

歌うような

楽しさがない

その理由は

わからない