2013年10月5日土曜日

驚いたことシリーズ③

驚いたこと③
 駅のホームに立っていると、旧知の大学教授ご夫妻と出会う。
「私たち、法事で東京へ参りますの」なつかしく楽しい雰囲気。
特急に乗ると偶然にも座席は前後だった。先生は、奥様と相談し
きみ、席をくるりと回せ、今度、漱石の初版本をね」と、先生は上機嫌、
 奥様は朝早く、お疲れの様子、うつらうつら。先生はわがまま、好きなことには熱中するが、嫌いなことは断固拒絶。私は若く、階段を二段ごと駆け上がる。先生も、膝を痛めておられる奥様をかばい、ゆっくり乗り換え。       
 新幹線が着く。先生と同じ車両、席も前後で空席が多い。
「さあさ、こっちこいよ、今日は愉快だ」先生は、車内で子供や
ご婦人がわあわあしゃべるのが大嫌い。先生は古書自慢「この前、北村透谷の」その時だった。ワイワイ騒ぎながら七十代の女性が、たくさん
乗り込んできた。
 ホームにもあふれているではないか。先頭のリーダーが私の頭上で大声を上げた。「どいてください。私の席です」。
「え、なんだい」先生はにらみつけた。「どい てください早く」。
 私は「席は何番ですか」「〇の〇〇のD席」私の座席だったから、私は切符を見せて「そちらが間違いですよ」強く出た。
先生は「そうだよ」するとリーダーはくるりと振り返り、
「この列車は違う。全員降りて、さあ降りて」みんなすぐに下車した。
 先生は、「最近は、ああいうやからが多い。おっちょこちょいだ」。
 まもなく車掌が検札にきて、「お客さん、この切符は後ろからくる列車ですよ」一番前の車両に移動させられた。先生はその後二十年間、何度も何度も笑い転げた。あのご婦人たちの旅は、その後どうなったのか。

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