2013年10月5日土曜日

驚いたことシリーズ④

驚いたこと④
 最近、頭をカラスに蹴られた人がいる。近くに巣があり、攻撃的になるらしい。私も激しい威嚇を受けた。
 鳥類憐れみの令があるから、弓矢や光線銃などで報復はできない。畑に金色のテープを張り、麦藁帽子に針金を植え、自己防衛した。朝からぎゃあぎゃあ騒ぐ、たのむから静かにして欲しい。
 我々は金や名誉、おいしいものには関心を持つが、さすがにカラスは食べない。職場で「おいしい魚を食べる会」をつくり、民宿へ行ったことがある。上司が魚釣りの極意を披露する。まず自分を石と思え、動いてはならぬ。あいつらは目が良い、ちゃんと見ている。絶対に音を立ててはならぬ。夕食には「船盛り」が出た。大皿に動いているイカ。
 今にも皿から這い出すようだ。エビやヒラメの中央に大きな「ヒラマサ」の活き造り。青く大きな頭。「ブリ」と「ヒラマサ」の違いを、またも上司は解説した。私は乾杯の準備をしていた。上司は、徳利から熱い酒をヒラマサの口に注いでいる。「これが一番喜ぶ」
そして、人差し指を魚の口に近づけた。「ほれほれ」その時、ヒラマサがちらりと視線を動かしたように思った。瞬間ばくっという重い音がした。ヒラマサが上司の指にかぶ りついた。上司は魚の頭を持って立ち上がった。刺身やサザエは座敷に散乱し、包帯だ消毒だとみんな右往左往した。その隙にイカがいなくなった。やがて机の下からほこりまみれで恥ずかしそうに出てきた。洗ってきますか、みんな迷った。
 その夜、民宿の主人から説教された。命をもてあそんではならぬ。そういうお客が時々咬まれる。罰が当たるのだ。我々も神妙な顔つきだった。 
 反省を込めて「ヒラマサ」の会はすぐに解散した。実は、その後、昼休みになると廊下に集まり大笑いしていたのだ。「罰当たり」と叫んで、魚の頭をつかんで立ち上がる場面で、いつも私は、喝采を浴びていた。それが上司に見つかったのだ。

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