2012年9月29日土曜日

新詩集6


老夫婦の家   
 

冷蔵庫の中には

何も入っていなかった

授業参観の日程や公園の掃除当番表

散らばっているトランプ

途中で止めた野球ゲームもプラスチックのバットも

昆虫の死骸が入った虫かご

何にもなかった

二人はひっそりと笑っていた
 
私たちはそんなに長くこの世にいられない

もう充分生きました

 
ひっそりと笑った
 


子供達の洗濯物は山と積まれて

太ったお母さんは汗だく

アイスクリーム買って

うるさい

あっち行きなさい

泣きわめく騒々しい家

 
繰り返すいとなみ

ひととおり体験すれば

出口はこちら

矢印が見える
 
あるいは

結婚しないという方法もある

 

過去を刻む時計

 
停まった時計

今日も停まったまま

 
新聞が届く

あたりは朝になり

仕事に遅れる

 
この時計は

過去を知らせる時計

現在の時刻を

知らせてくれない

 

書店

  

書店は混雑している

洋書コーナでぱらぱら

灯台でもライオンでもきりんでも
 
「風と共に去りぬ」スカーレット

ウインドは風

ウインドウは窓

馬がホースで家はハウス

馬はしっぽがついて

はねてrがつく

家にはお風呂があるから

uがつく

近所のおじさんに教わった

 She is not  beautiful

 
洋書の立ち読みですか すばらしい

いいえ
 

アメリカ人と結婚してイギリスに住んで

ハワイで踊って

ナイヤガラの滝を見物して

日本は隣の国の言葉をよく知らない
 

島国ですからね

 


失敗が許されない日

 
不思議な夢で起こされる


靴下の裏表を確認して

バス停に

バスはすこし遅れて

いつもと同じように

ドアを開け

お待たせいたしました

と迎えてくれる

次はスポーツ用品店前

次は駅前終点
 

僕は傘を握りなおし

水溜りを避けて
 
 
歩き出す


こうしていつかは

誰かと交代するのだ

バスの運転手も

誰かと交代するのだ
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

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