2012年9月29日土曜日

新詩集7

賞罰  

思い起こせば

これまで

心底ほめてくれたのは

自動車学校だけだった

おたふく風邪で学校を休むと

あさりの入水管と出水管を

母がスケッチしてきた

そのせいか

試験は満点だったがいじめられた

子供の頃から

褒められると喜ぶ

このままずっとこうやって

年老いていくのか

このままこうして生きていくのだろうか

 

そうして

いよいよという時

棺に表彰状を入れろなんて

必死に騒いで嫌われて

なかなか死なないのだろうか

 

拒絶


何かひとつ自分のものを持ちなさい

なんでもよいから

きちんと持っていなさい

そうすれば

何が起きても平気

心のよりどころのようなもの

頼ることも大事です

今日

私があなたを訪ねたことは

神様が予定していたこと

その結果あなたは私をほらこうして

玄関へ招き入れて私と話している

すでにあなたは選ばれた人なのです

私は私です

ほっといてください

あなた、あなたはきっと不幸になります

なぜならあなたは私を拒絶しました

つまり神様を拒絶した

あなたは必ず不幸になります

しかしまだ間に合います

これも決まっていることです

 

真夜中の水槽  
 

ほとんどの仲間が眠っているのに

起きていていじめられているのか

いじめているのか

水槽を上下して

奇妙なダンスを踊り続ける

眠っていても

目は開いている

何も知らないようで

すべてを知っている

ブラジル生まれの青い魚

タイからやってきた赤い魚

ときおり激しく上下する

静かにしているようで

抜き打ちで見れば大騒ぎ

水槽の中の熱帯魚たちの

本当の気持はわからない

僕はだまされている

熱帯魚は

みんな猫をかぶっている

  

怖い夏


つぎからつぎへと

人が殺される

三流の外国映画だから

犯人がすぐわかる

隣はニュース

名古屋の白熊に氷柱をプレゼント

丈夫なあごでがりがりかじる

たいしたものだ

アフガニスタンの老ライオンは

柔らかい肉をもらっていた

チャンネルを戻すと

また一人殺されている

犯人はわかっている

犯人は一番おとなしい

怖がりでおとなしく

きちんとして

ていねいな少年

 



駅は不思議なところ

あちこちから人が集まり

またどこかへ去っていく

送られる人も送った人も

笑ったり泣いたり

真夜中には誰もいなくなる

真夜中には家に着き

ホテルで眠り

どこかのバーで飲んでいる

実は私は

ある事件を追っている

しかしすでに時効である

証言が必要なのでひとりの

女性を待っている

改札口を出てくる

こぼれるような微笑み

白い歯の人

現われたら

駆け寄り自動販売機の陰でキスをする

その直前に噛んでいるガムを棄てる

ガムは大切なエチケット

まてよ

もしも次の列車だったら

めんどうな駅



北海道大学

 

演習林にいました

地下足袋が備品で

定期検査のとき

ゴムが減っていると叱られる

いつも

はだしでした

官立大学では

そういう変なことがある

大学構内の線路は石炭を運んだ跡です

蛇はいないけどかえるはいますよ

広いでしょ

二時間歩いてこれで半分

このライラックいい香りでしょう

鮭 毛蟹 イクラ 帆立 雲丹 ホッケ たらば
 
僕は大阪ですから大阪のたこやき

くいたい



歯科医


週刊誌には

きれいな写真がいっぱい

ラーメン紀行

いい文章

待合室は電気ドリルの音でいっぱい

どんなきれいな写真も

どんなおいしい店も

しばらくは口をあけて

ひたすら耐える

我慢・我慢・我慢

ひゅーんひゅーん

はいうがいしていいですよ

美人の目元がやさしく潤んで

それではまた来週

治療を受けられるのは

幸せなことさ

どこかの国は歯より命

自分をなぐさめて

おや今日は何か奥歯に入れてある

しみじみかみしめて

 

隣の芝生
 

僕は隣の町が好き

隣の町の人は僕の町が好き

僕は隣の県が好き

隣の県の人は僕の県が好き

僕は隣の国に興味はある

隣の国の人は僕の国が嫌い

 

僕の国は戦争をして

あちこち苦しめたから

 
隣の県の人

僕の県に来て

自分の県を悪く言う

だけど

僕は自分の県は案外と好き

僕は自分の国は案外と好き


こんな美しい国なのに

死に物狂いで


泣きながら戦って

敗けて嫌われて


謝っても

なかなか許してくれない


苦しい毎日を

過ごしているから
 

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