2012年9月29日土曜日

新詩集4

この国 1


食料品売場
 

缶詰の山が突然崩れた

アイスホッケーのキーパみたいに

すばやく両足でくい止めた

店員が駆けてきて にっこりほほ笑む

拾ってくれたけど ありがとう

しかいえないわ

缶詰あげたいけど 残念ね

この国 2

自動車用品売場


スキーに行く男女が

屋根に付ける部品を選んでいる

車の種類と年式で決まるんだ

カタログはなかなか複雑で

僕などは一時間もかかったのだ

彼らは知らない

僕は知っているから

店員よりていねいに説明した

彼らは急に駆けて行って

棚の向うで笑っている

 
この国 3

電気マッサージ椅子売場


電気店にずらりとマッサージ椅子

ご自由にお試し下さい

「肩と背中たたきコース」

隣に老婦人が座るが動かない


電源が切れている

このスイッチを押せば

ひえっ

腰は急に動きはじめる

老婦人は腰痛を忘れ僕を睨む

まもなく亭主が駆けつける



この国 4

前衛美術展


自由に触って

と書いてある

 
砂が盛られている

校庭の砂場みたい

なかなか楽しい

おなかがちくちく痛い

昨夜

画家とモジリアニの愛人のことで深酒した


あたりを見まわして誰もいないから

片隅で静かにガスを抜く


「ぎええ」

美術館にカエルがいるのか

幕のうしろで誰かが吹いた


ピカソもダダもみんな前衛だった

みんな古典だ

特にシュールレアリスムは

得意げに発言しても


ぎゃははは ぎゃははは

近所のパートの主婦が笑い止まらない

当分 美術館には行かない


この国 5

南青山のしゃれたレストラン

世田谷のおじさんの巻き舌

おいら バクロウチョウの生まれだよ

東京に五十年住んでいるみたいに

落ち着いてさあ飲みましょう

赤ワイン 左岸 右岸の今年の状況は

ローヌボーヌセーヌ


ウエイトレスが不意に

パントライスはどういたしますか

 
不意をつかれた 知らない食いものだった

にんにくでと言った

ガーリック味ならたいてい食べられる
 
ウエイトレスは無言で引き下がった

まもなく調理室から

ぎゃはは ぎゃはは

ごはんとパン どちらにしますか

そのように聞いてくれれば

ごはんと言ったのだ










 

 
 
 
 

 

 
 


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