2013年5月9日木曜日

散歩は一人で

散歩は一人で行うスポーツ。

 車の中のきれいな美人は、きっと僕の方を見ているだろう。ちゃうちゃう誰も見てまへんで。
 ラーメン屋は午後2時まで。トッピングの卵は売り切れ。なるほど、看板を見ているのに、僕は自分のことを見ているだろう女性を意識している。 

 前から来たじいさんの自転車と衝突「人は右やろこのあほが」じいさんに怒鳴られ、歩道でも適用するのだろうか。
 あやまりながら助け起こすが、にんにくというより、歯槽膿漏、タバコのヤニで、じいさんは、入れ歯まで落とした。こわい顔。まさに宦官。

 春は福井大学の塀に沿って裁判所、中央公園からお城、九十九橋を越えて帰ってくる。

 学生がいる。小学校の校庭は野球練習。隣では楽しそうなテニスクラブ。街路樹が新芽を吹いている。

 日々の散歩の折に僕はいつも狭い露地を歩いていた。「マルドロールの歌」の一節。ロートレアモンにはいつも参った。
 

 そうだ、犬は飼主に似るといわれる。不思議に思うが、犬の「表情」は確かに飼主に似ている。富山でフレンチ・ブルドッグを連れている夫人を見た。帽子をとると、夫人はフレンチ・ブルドックよりフレンチ・ブルドッグだった。
 
 
 夏の散歩は暑いから午後5時から7時の間。蝉の中。昔の事や、学生の頃ビールを飲んで笑っていたことや、川で遊んだことを思い出す。

 住宅街の一角。庭でバーベキューをしている。子供達がトウモロコシを持って騒いでいる。僕も同じことをやってきた。隣の兄ちゃんは金沢まで行った。先にやっててや。
 かえでの葉が生い茂り、夕日がきらきら光る。頭の中にブラームスが流れてきたり、サンタナのブラック・マジック・ウーマンが聞こえてくる。夏は心の鍵を甘くするわご用心、桜田淳子の声もする。足羽山は犬の散歩が多い。曲がり角の向こうから巨人阪神戦のナイター中継が聞こえることもある。携帯ラジオを鳴らしながら散歩している。
 ホームランが出ると立ち止まるので犬は迷惑だ。夏は元気な人が散歩に出る。打ちました入った入った入ったあ。

 枯葉が落ちる。センチメンタルに。白い便箋に手紙を書く。中指が青いインクで染まっている。誰かさんと誰かさんがミニクーパでデートだ。
 うしろにスヌーピーを乗せて。いいないいな。

 柿の実がなっている。眺めていると、2階からこちらを見ている人が「ピシャリ」と戸を閉める。なにも盗りませんよ。怪しく見えるのか。

 歩いていると突然犬に吠えられる。郵便局の人に聞いた話。長い間カバンは「牛皮」だったが、犬に噛まれるので合成皮革に変えた。
 電気メータを調べる人「ビーフジャーキー」を持っている。吠えられたら、ぽいっとやる。次回からは1回だけワンというよ。
 頂戴という。1回だからワン。ドウもすみまわん。冬の散歩は運動公園。

 木々は寒風にさらされるが、よく見ると新芽が出ている。春の準備をしている。春がくる前にもう雪の下で準備している。春に遅れる新芽など、ない。

 雪の道は歩きづらい。犬は人間が通った場所を選ぶ。信号を待つ間、車の水がかかるので、人も犬も、すこし道路から離れる。田舎の犬はきっと「ばしゃ」と水をかけられるのだろう。

 散歩の途中、犬が向こうからこちらを見ている。秋田犬、それがちょっと尻尾をふって近づいてくる。6百メートルほど離れている。こちらが早めに右へ避けると向こうも早めに向かってくる。
 いやだいやだ。無人の交番へ避難した。するとパトカーがやって来て、「何か用か」。「犬に追われています」。「なぜだ」。「知りまへんがな」。


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